Novel

ビッチな彼女 - 03

「もう、お前の中に入ってもいいか?」

熱を孕んだ瞳が私を見下ろす。

ここまで強引にことを進めておいて一歩引かれると、まるで私が焦らしているみたいだ。欲しがる私に挿れてくれなかったのは目の前の男なのに。

私ばかりイかされ、恥ずかしい思いをさせられ、仕返ししたい気持ちが湧いてこない訳でもないが、中はもう痛いくらいに疼いてる。

それに、シャワーさえ待てないと言ったくせに、今の今まで刺激ひとつ与えずに待てる彼の辛抱強さにはどう足掻いても敵いそうにない。

さすがは五年も禁欲生活をしているだけある。

そもそも欲望に弱い私が、彼に我慢比べで勝てるはずがないのだ。

名前

ねだるように甘く呼びながら、イゾウの手が私の脚を開く。

くちゅ、と秘裂に擦り付けられたモノはビクビクと躍動し、はち切れそうなほど大きい。目の端にチラチラ映っているときから思っていたが、優美な着物の下にこんな立派なものを隠していたなんて。長さも太さも申し分ない。それが、今から私の中に入ってくるのだ。

私は口内に溜まっていた唾液を飲み込み、律儀に返事を待つ彼に手を伸ばす。

「いいよ、イゾウ。私も欲しい」

首筋に腕を巻き付けると、柔らかな口付けが降ってくる。同時にぐっ、と腰を押し付けられ、ずぷりと太い部分が挿入された。指とは比較にならない質量。息を詰めた瞬間、ぐちゅん、と熱い楔が一気に潜り込んだ。

「ああぁっ……!」

背中が反り、身体中から汗が噴き出す。

久々の性交に悦ぶ膣が、うねりながら肉棒に絡みつく。イゾウの感触を確かめるようにぐにぐにと締め付けているのが自分でもわかった。

「っ、はぁっ、……たまらないな、お前の中、は……」

眉根を寄せて快楽に耐えるイゾウ。その表情の艶めかしさに、ゾクッとしたものが背筋を走る。瞬きも忘れて一瞬見惚れていると、視線に気付いたイゾウがふっと目を細め、頬を撫でてきた。その手が顔の輪郭をなぞり、ゆっくりと下りていく。首筋から鎖骨へ、鎖骨から胸へと下りて臍の下でピタリと止まる。

「ここに、おれが入ってる。わかるか?」

確かめるように軽く押され、その存在感が増す。

薄い皮膚の上からぐりぐりと擦り付けられると、大きく張り出した先端の膨らみが敏感な粘膜に押し当たり、きゅん、と奥がわなないた。

「んぁっ、だ、めっ、お腹……押さない、で……っ」

まだ動かされてもいないのに達しそうになってしまう。思わず引いた腰を、ガシッと大きな手が掴んだ。

「逃げるな」

抜けそうになった楔が、再び打ち込まれる。

「……ひっあっ、ああッ!」

ばちゅん、と皮膚同士がぶつかる。奥を強く突き上げられて、目の前で火花が散った。

「くっ、名前、……締めすぎ…だ……」

「ひぅ、ん……っ! 待って、動か、ないでっ、イゾウ……、いま、イってる、からぁ……っ」

「っ、悪いが、無理だ」

「ああッ、んあっ、ひああッ」

絶頂の最中も容赦なく責め立てられて、悲鳴じみた声が出る。最奥を抉る先端。両脚を抱え上げながら擦り付けられ、熱い飛沫が噴き出す。

「んっ、ああぁぁッ……!」

「っ、は、……すごいな、挿れたままでも出るのか」

「あっ、ぅ、だって、きもち、い、イゾウ、の……奥に、当たる、の……あっ、はあっ、」

「どうせ、他の男にも言ってんだろ」

「ひぁ、言っ、てな……誰にも、っん、イゾ、だけっ、あっ、ああっ……!」

「っ、お前は、本当に……っ」

激しく奥を突かれる。

ぐちゅぐちゅと、結合部は慎みのない音を響かせ、突き上げられるたびに、ぷしゃっと断続的に潮を噴き散らして絶頂する。気持ちいい。どうしようもなく感じてしまう。久しぶりだからなのか、相手がイゾウだからなのかはわからない。だけど、過去に寝た誰よりも気持ちが良くて堪らなかった。

「ああっ、ひ、あっ、またイク、…っ、イッちゃう……!」

「……ああ、俺も、もう……っ」

夢中で腕を伸ばし、彼の首にしがみつく。背中が大きく仰け反った途端、子宮口をこじ開ける勢いで叩きつけられた肉棒が限界まで膨れ上がった。

「っ、くっ、ぅ……」

「んぅっ」

低い呻きと共に、びゅくびゅくと吐き出される大量の熱。収縮する胎内に浴びせられる慣れない感覚に、私は身を震わせた。

禁欲中の彼に避妊具の用意はないだろうと言及はしなかったが、まさか中に出すとは思わなかった。

避妊薬を服用していると以前話したからかもしれないが、中出しなんて彼氏にさえ許したことないのに。

一言言いたい気持ちはあるが、蕩けきった思考と身体ではどうにも気力が湧かなかった。なにより、訓練でも息一つ乱さないイゾウが荒い呼吸を吐き出しながら私の上で脱力している姿を見れば、すぐにそんな気は失せてしまう。

こんな表情見せられたら文句なんか言えない。

私の中で果てて満足そうに息つく彼を、少し愛おしく思ってしまった。

「ん……どうした、の?」

汗ばむ肌を合わせながら乱れる呼吸を整えていると、不意にイゾウがこちらへ視線を向けた。

「んっ、あっ、なに……」

「悪い」

「え?」

「まだ、おさまらねぇ」

たった今吐精したばかりの肉棒が、硬度を保ったまま奥を突く。

「やっ、うそ……もうだめ、だって、んひっ、ああっ、」

慌てて胸を押しやるが、その手を絡め取り、イゾウがシーツに縫い止める。

「あっ、んんっ……ふ、あっ、も、むり、だって……っ!」

「もう一度付き合ってくれ。回数こなせる男がいいんだろ」

昨夜は確かにそう言った。だけど、こんなにイかされるセックスなら一度で充分過ぎる。これ以上は毒だ。なのに何度も突き上げられるうち、快楽に弱い身体は簡単に肉欲に溺れてしまう。

「ひゃぁあッ! だめ、そこっ、また、イッちゃ……ッ、おかしくなる……っ」

「っ、なれよ。お前がどんな風に乱れるのか、全部見せてくれ」

「やぁぁっ、ああッ、ひあぁぁっ…!」

ぐりゅ、と弱い部分を穿たれて、ぼろぼろと両目から涙がこぼれる。だらしなく開いた唇から喘ぎ声と唾液を垂らし、悶える姿をイゾウが見つめてくる。張り付くような視線から逃れたくて、拘束を抜け出した腕で顔を覆い隠すが、すぐに掴まれ元の位置に縫い付けられてしまう。

「あぁっ、やぁ、ああッ……」

その間も、イゾウは自分の形を覚えこませるように執拗に擦り付けてくる。思考がどろどろに溶けていく。気持ちが良くて、理性も身体も砕けてしまいそうだった。

「ッん、ひっ、ああっ、イゾっ……も、…だめっ、だめなのぉ……」

「っ、だめ、じゃないだろ…お前のここは、もっと欲しそうに動いてる」

「あ、ひぁっ、んああ……ッ」

精液と愛液と潮が混ざり合った結合部は、ぐぢゅぐぢゅ、ばちゅばちゅと耳を塞ぎたくなるくらい粘ついた音を奏でている。

下肢を、布団を、イゾウを濡らし、膣内をみっちりと埋める屹立に突き上げられる度、熱い飛沫を噴き出して。

相手はイゾウなのに。

一夜限りの相手とは違うのに。

熱を帯びた瞳で見つめられると、その眼差しさえ甘い媚薬のように身体の奥底で快感にすり替わる。

「ああっ、ひあああッ!」

絶頂感が止まらない。ぎゅうっと収縮する内壁を手加減なく抉られて、何度も達してしまう。

身体中の力は抜けきっているのに、貪欲な媚肉は私の意志とは関係なく肉棒に絡みついていた。

「っ、は、……名前、もう、出ちまう」

「んっ、ふ、イゾっ、も、イッ……て!」

「っ、中に、また出してもいいのか」

「ひっ、んあっ、いい、から、も、出してぇ……!」

イゾウのこめかみから流れる汗の粒が胸元にぽたぽたと落ちてくる。これ以上続けられると、本当にもうどうにかなってしまいそうだった。がくがくと揺さぶられながら懇願すると、一際強く穿たれた。

「んああぁっ……!」

「ッ、はっ、ぁ……」

ぐちゅ、と奥の奥に差し込まれた肉棒が弾ける。

ドクドクと、二度目とは思えない量の熱が胎内を満たしていく。白濁を塗り込むように動く腰にぶるりと身体を震わせれば、宥めるように頬や首筋に口付けが落とされた。

「ぁ……はぁ……は、ぁ……」

噛み締めた薄い唇の隙間から、荒い息が吐き出される。ぎゅうっ、と抱きしめられると、一段と汗を含んだ身体が吸い付くように触れ合った。

互いの鼓動が激しく脈打っている。

しばらく余韻を感じていると、イゾウが額に張り付く髪をかき上げて身体を起こした。

「泣くほど、良かったのか?」

濡れた目元を、親指が滑っていく。

正直、今まで経験したセックスの中で一番良かった。それも、比べ物にならないほど。

彼の技巧もあるけれど、身体の相性もすごくイイのだろう。

「イゾウは?」

めちゃくちゃ良かったと、口に出すのは負けを認めるみたいで悔しい。逆に質問で返すと、イゾウは楽しそうに笑いながら私の唇を指先でなぞった。

「なんなら、もう一度するか?」

笑ったままの唇が重ねられる。

差し込まれた舌が口内をまさぐると、未だ胎内を満たしている剛直がビクビクと震え出す。二度も吐き出したのに、全く力を失っていない彼のモノ。

禁欲が長かったからか、常なのか。

聞くのも怖いが、これ以上は本当に限界だ。

彼の胸を軽く押し返し、唇を離す。

「ほんとに、もう、だめ……」

「わかったから、そんな泣きそうな顔するな。我慢できなくなっちまうだろ」

ちゅ、と汗まみれの額にキスが落とされる。

そのまま腰が引かれていくと思っていたら、イゾウはぐりっ、と奥に一度擦り付けてから出て行った。

「……っ、んぁ、いじ、わるっ!」

涙目で睨みつけると、頭をくしゃっと撫でられた。

「我慢するんだから、それぐらい許してくれ」

楔が抜かれると、繋がっていた場所からどろりとしたものが溢れ出していく。ぞくりとする感覚に腰を浮かせると、イゾウが手早く拭ってくれた。恥ずかしいけど、布団をこれ以上汚したくない私はされるがままだった。

「喉渇いただろ、水入れてくる」

ポン、と労うように私の頭を撫でたイゾウは傍で乱雑に丸まってる着物を羽織り、流れるように帯を締めながらスタスタと歩いて行く。一晩放置した着物はシワシワだったけれど、イゾウが着るとそのシワさえ加工が施されているように見えるから不思議だ。

それにしても、この体力差は一体なんだろうか。私も鍛えている方だが、まだ指を動かすのも億劫だ。

久しぶりの倦怠感についうとうとしていると、畳を擦る足音が聞こえてくる。目を開けるとグラスを持ったイゾウが隣に座るところだった。

「……元気だね、イゾウ。私、まだ動けないよ」

「鍛えてるからな」

「私だって鍛えてるよ」

「お前の三倍は鍛えてるさ」

数字の根拠はわからないが、あの筋肉を見れば納得してしまう。だけど得意げに言われてちょっと悔しい。少しだけ頬を膨らませると、イゾウがクスッと笑ってグラスに口付けた。その様子を寝転びながら見上げていると、頭を軽く抱えられ唇が重なった。

「……ん」

さらりとした液体が、喉の奥に流れる。

こくっと飲み込むと共に、水を飲ませてくれたんだと知った。まだ動けない、と言ったからだろうか。口移しなんてまるで恋人同士みたいだと妙にこそばゆくなった。

「もっといるか?」

「うん、欲しい」

照れ臭いけど、喉はカラカラだ。

水差しから注いだんだろう水は少しぬるめだけど、渇いた喉を潤すにはちょうど良かった。

「ありがとう」

最後にぺろっと唇を舐められる。

驚く私に、イゾウは悪戯っぽく笑う。

……何だろう、この甘ったるい雰囲気は。

抱えた頭を布団に戻さず、膝の上に乗せて柔らかく撫でる手にむず痒さを感じる。

寝た男の中にはピロートークを好む者もいたが、彼もその類なんだろうか。

「頃合いだな」

ふと、イゾウが壁の時計に視線を向けた。

つられて私も目をやると、ふわりと身体が宙に浮く。いきなり高くなる目線。慌てて目の前の逞しい首にしがみつくと、彼はそれなりに体重のある私を横抱きにしたまま、危なげない足取りで歩き出した。

「ど、どこいくの?」

「風呂場だよ。さっき湯を沸かしてきたんだ」

あっという間に脱衣所に運ばれる。

浴室の扉を開くと、もわもわと白い湯気が煙っていた。森林のような良い香りもする、と思ったら、床のタイル以外はほとんど木造りで驚いてしまう。

「……すごいね、イゾウの部屋のお風呂。こんな感じだったんだ」

自分たちの部屋とは全然違う浴室。

まるで温泉旅館に備わっているお風呂みたいだった。

「ヒノキで作られているんだ。香りがいいだろ」

「うん、落ち着く香り。それにすごく広いね」

イゾウの部屋には何度も来ていたが、浴室が部屋同様こんなに素敵だとは知らなかった。

これはリラックス効果が高そうだ。

「オヤジほどじゃないが、おでん様も大きな方だったからな」

「そうだったんだ、いいね、広いお風呂。温泉みたいで毎日入るの楽しそう」

「気に入ったんなら好きに使えよ」

どうせしょっちゅう入り浸っているんだから、と気軽に言われて困惑する。

イゾウに好きな人がいることを知った今、部屋に入り浸るのはよくない気がするのだ。

「どうした?」

わずかに首を傾げるイゾウ。

微妙な表情でも浮かべていたんだろうか。

「なんでもないよ……って、まさか一緒に入るつもり?」

私を浴室に降ろしたイゾウは脱衣所で帯を解き、着物を肩から落として戻ってくる。

「問題あるのか?」

「あるに決まってるでしょ」

反論すると、綺麗な顔がしかめっ面に変わった。

「何が問題なんだ?」と、黒い眼差しに射抜かれ、どう言おうか迷う。

「他の男とは入ってたんだろ?」

確かに入っていたが、それを引き合いに出される謂れはないのだが。しかしさすがは隊長。詰め寄る迫力は半端ない。気圧されて一歩下がると、重力に素直な液体が中からこぷりと溢れ出した。

「……んっ」

ぶるっと身震いする。無意識に太腿を擦り合わすと、視線を下ろしたイゾウの口角が微かに持ち上がった。

「ああ、掻き出したかったのか」

彼の瞳には股の間を伝う白濁が映っているのだろう。恥ずかしさも相まって私は唇を尖らせる。

「……そうだよ。イゾウが中で出すから」

「許可は貰っただろ」

「二度目はね。一度目は勝手に出したでしょ」

「それはお前が……いや、おれが悪いな。責任持って掻き出してやるよ」

イゾウはそう言うなり、自分の中指に舌を絡ませぴちゃりと舐めた。扇情的な仕草につい見入ってしまうが、そんな場合ではなかった。これはマズイ。

「ちょ、ちょっと……」

待って、と仰いだはずの唇は薄い唇に塞がれてしまう。有無を言わさず口腔に舌が侵入し、胎内にぬぷっ、と指先が埋まる。

「んっ、んんっ……」

第一関節から第二関節までじわじわ挿入しながら、舌を絡める。感じる部分には触れないよう優しく掻き混ぜる指が二本に増え、先程のように中でV字に開く。どろっと熱い液体が隙間から溢れ、震える内股を伝い足首に流れていった。

「はっ、う、んんっ」

「全部、出たようだな」

何度か同じように掻き出して、唇と指から解放される。

「随分、出たな」

苦笑混じりの声に足元を見ると、グレーのタイルの上には掻き出された白濁が留まっていた。

「イゾウが出したんでしょ」

答えながら、私は下方に向けた視線に映る彼の昂りに目が釘付けになっていた。引き締まったお腹にくっつきそうなくらいに反り返る剛直。

涼しげで端正な顔に似合わない卑猥なそれに思わず喉が鳴る。改めてこんなに立派なモノに貫かれていたんだと思うと胸まで高鳴った。

「……っ」

透明な糸を垂らす鈴口に、そっと手を伸ばす。

ぬるつきを指の腹で撫で付けると、イゾウが息を詰めた。そのまま両手に握り込むと、浮き出た血管が手の中でドクドクと脈を打つ。

「……っ、はっ、名前……」

掠れた声が鼓膜を撫でる。

先端のくびれから根元までをゆるやかに扱きながら、タイルに膝をつく。ぷくりと新たに浮かんだ先走りの球体を舐め取ると、イゾウが腰を引いた。

「……っ、よせ、名前。そんなことしなくていい」

「なんで? 私上手いよ? みんな上手だって褒めてくれるし」

見上げた彼は眉根を寄せて堪えるような表情を浮かべてる。──やっぱりして欲しいんじゃん、そう思った私がもう一度舌を伸ばすと、肩を軽く押された。

「…………とにかく、おれはいい」

すっと離れると、彼は私の手を引いて立ち上がらせ、手桶ですくった湯を私の身体に掛ける。暖かい湯が、情交の痕とタイルの上の白濁を流していく。

なんだか拒絶されたように感じたが、私がオーラルセックスを嫌いなようにイゾウも苦手なのかもしれない、と結論付けた。