Novel
愛していると言ってくれ - 05
それから、どれくらい飲んだだろうか。
最初は緊張して、おれの話に相槌を打つ程度だった名前も、徐々に肩の力が抜けて話が弾んだ。酒もよく飲んだ。
と、言っても名前は最初の一気のあとはスローペースで、結局グラスに二杯程度だろうか。それでも強い酒だし、若い女の割にはよく飲んだ方だ。
おれの方もついぐいぐいと飲んでしまい、いつの間にか酒瓶は空になり、あとはグラスに残っている分で最後になった。
ツマミも粗方なくなり、室内はおれが吐き出した白煙が充満して、薄い雲のようにランプの周りを纏わり付いている。
名前は少し前から口数が減り、時折ぼうっと一点を見つめては、目をパチパチ瞬かせていた。
飲み始めて、二時間。
意識を無くされても厄介だし、いい頃合いだろう。
手元の灰皿に煙草を揉み消し、名前の方へと詰め寄る。おれが近付くと、名前は接近するおれを見上げて首を傾げた。
「どうか、しましたか……?」
潤んだ瞳に、上気した頬。
おまけに半分開いた唇から赤い舌をちろりと覗かせて、とろんとした表情で上目遣いされると、さすがにグッとくるモンがあって……無意識にゴクリと喉が鳴る。
下手すりゃ二回りも年下の、ガキ過ぎる女と思っていたが、色っぽいその姿はおれの劣情を刺激するのに充分過ぎるほどだった。
「名前は酒が強いんだねい。意外に飲めるから驚いたよい」
「……いえ、マルコ隊長につられて飲んでるだけで、たぶんもう、歩けないくらい、フラフラ、ですよ」
「だったら、今夜はここに泊まっていけよい」
酔いが回っているのか普段より舌ったらずな名前をじっと見つめて誘うと、名前は目を瞠り、取り乱した様子で首をぶんぶん左右に振った。
「あ、いえ! だっ、大丈夫です、歩けますから! ほら、」
「あ、おいッ……!」
止める暇もなく、名前は勢いよくソファから立ち上がる。
だが、酔った頭をそんなに振って立ち上がれば、目眩を起こすのは当然のこと。
案の定、勢いよく立ち上がった名前は一歩も踏み出せず、ふらりと膝から崩れ落ちた。
とっさに腕を掴み、自分の方へと引き寄せる。
どさり、とおれの胸に倒れ込む華奢な身体。
「……っ、大丈夫かい」
身を案じる言葉を掛けながら、おれの意識は別のところに飛んでいた。
胸元にかかる名前の重み。
花のような甘い香り。
肌蹴た胸に直接触れる、火照った頬の柔らかな感触。
唇から吐き出される、熱い吐息。
──どくり、と欲が疼く。
「ぁ……、すみま、せん……」
自分の身体をどけよと、名前が身をよじる。
おれは離れようとする名前の背中に腕を回し、ぐっと力を込めた。
「帰るなよい」
「ぇ……」
胸の中に閉じ込めて、身動きできない名前にそう告げると、上擦った声を上げて名前がおれを見上げる。
「泊まっていけよい」
耳元でもう一度問いかけると、ピクッと身体を震わせて、そして、しばらく迷ったあと、耳まで赤く染めた名前が躊躇いがちにうなずいた。
合意を得たおれは薄く笑い、名前の身体を抱き上げて奥のベッドへ運ぶ。
そっとベッドに横たわらせると、真っ白なシーツの上に名前のグレージュの髪が広がり波を打つ。
バサッ、と上着を脱ぎ捨てて名前に覆いかぶさる。
名前は小さく息を呑んでおれを見上げた。
子どもじゃないんだ。
これから何が始まるかは、名前も充分理解しているだろう。
それでも逃げようともしないのは、名前にもその気があるからだ。
名前の頬を撫で、親指で唇をなぞる。
ビクリ、と白い肩を震わせて、小さな吐息を漏らす名前にゆっくりと顔を近付け、そのふっくらとした唇にそっとキスを落とす。
あの女とは違う。
熱い唇の感触に、興奮した。
ちゅ、ちゅっと音を立てて、何度か触れるだけのキスを繰り返す。
固く閉じていた唇が少しづつ弛緩するのに合わせ、舌を挿し込み、深く名前を味わう。
「んぅ、っ……」
柔らかな舌を絡め取り、存分に名前の舌を堪能して唇を離すと、呼吸を乱した彼女の潤んだ瞳と視線が絡んだ。
その熱っぽい視線と吐息に、欲が煽られる。
おれは名前の白い首筋に顔を埋め、性急に服を脱がした。
