Novel
誕生日に咲く花は - 02
朝日が射して、目が覚める。
おれの隣ですやすやと眠る名前。
そのあどけない寝顔を眺めると、自然と頬が緩んでしまう。
昨夜は本当に幸せだった。これほど満ち足りる誕生日を過ごせるとは思ってもみなかった。
彼女の白い首筋に咲く、赤い花。
自分の首筋にも同じものが咲いていると思うと、胸の奥から温かな感情が溢れた。白い肌に映える赤にそっと指先を這わせると、「ん…」と彼女が声を上げる。小さく身をよじるが起きる気配はなかった。
おれの腕の中で穏やかな呼吸を繰り返す名前が、愛おしくてたまらない。ずっと眺めていたい気持ちとは裏腹に、早く起きて欲しい想いがせめぎ合う。正反対の心を持て余しながら、誘惑に負けた唇を彼女の額に当てる。ごく軽く触れただけのそれに、ゆっくりと瞼が持ち上がった。
「名前……?」
呼びかけても返事はない。
まだ寝ぼけているのだろう。焦点の合わない瞳がぼんやりおれを見つめているだけだ。その表情が昨夜の情事を彷彿とさせ、理性が崩れそうになる。だが、無理はさせられない。反応しそうになる自身を落ち着かせ、もう一度口づけた。
「ん……」
今度は目尻にキスを落としたところで、ようやく目を覚ます。
名前の初めての男になれた翌朝に、彼女の瞳に映る最初の男になれる幸せ。眼差しの先に自分がいる幸せ。
今この瞬間の、何物にも代え難い幸福感に包まれながらおれは彼女に微笑む。
「おはよう、よく眠れたか」
「…はい。おはようございます、イゾウ隊長……」
恥ずかしいのか、視線を合わそうとしない様子が可愛らしい。そのままじっと見つめていると、耐えられなくなったのか、真っ赤な顔でふいっと横を向かれてしまった。そんなところまで可愛くて、せっかく我慢した欲望に火がつく。
「名前」
耳元で囁くと、華奢な肩がビクッと跳ねた。
「イゾウ、隊長……?」
自分に覆い被さるおれの胸に手を当て、戸惑いながら見上げてくる彼女に苦笑する。その表情も、仕草も、掠れた声音も、何もかもがおれを刺激することに気付いてないんだろう。昨日散々教え込んだというのに、全く無防備なものだ。
「煽った罰だ、大人しくおれに食われてくれ」
返事を待たず、細い首筋に唇を滑らせる。
昨晩付けたばかりの赤い跡に吸い付きながら、おれは彼女の身体を再びシーツの海に沈めた。
