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彼は不死鳥 - 04

唇が離れると、くたりとする私の身体をマルコ隊長が抱きしめてくれた。

彼の上半身は私にシャツを貸してくれた時から裸のままで。素肌が触れ、シャツを羽織った時よりも強いマルコ隊長の香りに包まれる。

「可愛いよい、名前

「……いいえ、可愛くないです、私なんて……」

褒められることに慣れていない私は、せっかくマルコ隊長が褒めくれているのに、否定する言葉しか出てこない。

甘い雰囲気も空気も、全部ぶち壊しだ。

本当に可愛くない私。

だけどマルコ隊長は呆れるどころか、そんな私の顔を覗き込むと、ふっと優しく微笑んだ。

「言っただろい。卑下するのは名前の悪い癖だって。名前は可愛いよい。俺は名前が見習いの頃から好きだった」

「……マルコ、隊長」

「男の機能を失ってからは話しかけることさえ躊躇って離れちまったが、こうして腕の中に抱ける日がくるなんて夢にも思わなかったよい」

私が告白したときマルコ隊長も好きと言ってくれた。でもあれは嘘だと思っていた。てっきり話を合わせてくれているんだと。

なのに嘘じゃなくて、しかもそんな前から想ってくれていたなんて。

あの頃、突然避けられて目も合わせてくれなくなって、見放されたんだとばかり思っていたから……

「もっと、名前に触れてもいいかい?」

息遣いと共に、耳元に吹き込まれる言葉。

この状態で“触れる”と言うのがどういうものかは、経験のない私にだってわかる。わかった上で、私は彼に「はい」と答えた。最後まで出来なくても、もっと触れて欲しいと思った。もっともっと彼を感じたいと思った。

するりと服の裾から手が差し込まれる。

背中を直に撫でられ、身体が震えてしまう。

「っ、あっ、」

くすぐったいような、だけどエースにくすぐられた時とはまた異なる感覚だった。

出すつもりじゃなく出てしまった声に自分でも驚いていると、優しくベッドに押し倒された。

私を見下ろすマルコ隊長の瞳は濡れていて、頬が少し赤い。興奮しているような表情。私もこんな顔をしているのだろうか。

見たことのない彼の色っぽい表情に釘付けになっていると、腹部に回された手がタンクトップをたくし上げる。

いつの間にホックを外したのか、花柄のブラジャーまで取り払われ、誰にも見せたことのない胸がむき出しになった。

「可愛い胸だねい」

「ひゃっ、」

微笑み混じりの声が胸に当たる。同時に先端をぺろっと舐められ、また変な声が出てしまう。

ナースさんとは比べ物にならない貧相な胸。なのに、マルコ隊長は楽しそうに揉んで摘んで吸って舐める。そのたびに洩れてしまう声が恥ずかしくて口元を手で押さえると、マルコ隊長にその手を取られてしまった。

「声、聞かせてくれよい」

「あっ、んっ……」

媚びるような高い声が室内に響く。

どうしてこんな甘ったるい声がでるのか、自分でも理解できない。みっともないと思うのに、マルコ隊長に触れられると身体がムズムズして抑えられなかった。

「ここにも、触れていいかい」

「やっ、あっ、そこは……んあっ、」

指先が腹部を滑り、ショートパンツを指す。

さすがにそこはダメ、と言いたいのに、先端をキツく吸われて言いたいことが言えない。

それでも意思は伝わったはずなのに……

「大丈夫だよい、痛いことはしないから」

と、優しく微笑んで、瞬く間にショートパンツと下着を脱がされてしまう。そして、流れるように私の膝を立たせると、思いきり左右に開いた。

「っ、やぁっ、見ないで……!」

恥ずかしさに軽く死んじゃいそうだった。

足を閉じようとしたけれど、素早くねじ込まれた身体に阻まれてしまう。

「ちゃんと見ておかねェと、痛くしちまうかもしれねェだろい。大丈夫、名前はここも可愛いよい。……ぐちゃぐちゃに濡れてるけどねい」

明るいランプの下、自分でも見たことない部分をじっくりと見られた上に恥ずかしいことを言われ、急激に顔が熱くなる。

「……そ、そんなこと……」

顔を背けて否定するが、マルコ隊長は「本当だよい」とくつりと笑う。

「ほら、この音、わかるかい?」

からかうような言い方をして、その部分に当てた指を動かす。ピチャ、ピチャ、と波が船に当たって跳ね返る時のような湿った水音が耳を刺激して羞恥を誘う。

知識としては知っていたけれど、こんな所が本当に濡れるとは思わなかった。だけど胸を吸われるたびに、なぜかソコが熱く痺れていたのも確かだった。

「胸だけでこんなに濡れるなんて、名前は随分感じやすいみたいだねい。これならすぐイけそうだよい」

「……やっ、でも、もう」

イクとか聞いたことはあっても何かはよく知らない。それより、こんな恥ずかしいことはもう無理だ。触れたいと言われ、私も触れて欲しいと思った。けれどもう限界だった。

「マルコ隊長、もう……ひっぁぁっ!」

やめて、と言う前に、マルコ隊長の顔が秘部に埋まる。指が割れ目を開き、舌が敏感な突起に触れる。その瞬間、ビリッとした強い痺れが身体を貫いた。

「ああっ……!」

身体が勝手に反り返り、ビクッと震える。痛みはない。だけど痛みにも似た強い快感に涙が零れた。

こんなところを舌で舐めるなんて信じられないのに、熱く痺れてたまらない。やめて欲しいのに、沸き上がる快感で手が震え、彼の頭を押しのけることさえできない。

「……や、ダメっ、そこ、熱い、のっ……」

ダメと言ってもマルコ隊長は無視して舐め続ける。舌がそこに触れるたび、身体が跳ねて私の中から溢れたものがお尻の方へ伝っていく。マルコ隊長はその雫を舐め取ると、突起に塗り付ける。そして、ちゅっと吸った。吸われると同時に、叫び出したくなるほどの快感に襲われた。

「や、あっあああぁぁっ……!」

瞼の裏で白い閃光が走る。大きく仰け反った身体がビクビクと痙攣して、ガクッと全身の力が抜けた。

訓練で走り込みをしたときのように息が上がり、ドクンドクンと脈動する心臓が胸を大きく喘がせる。

……これが、イク、ということなんだろうか。

気持ちよくて、よすぎて頭の芯がまだジンジンと痺れている。

動けないままきつく閉じていた目を開けると、ぼやけた視界にマルコ隊長が映った。

「………っ、た、よい」

私よりも放心した状態で、マルコ隊長は何かを呟いている。でも語尾しか聞き取れなくて、かすれた声を振り絞って聞き返すと、シーツの上に伸びている手を掴まれた。

「……勃ったんだよい! ほら!」

強引に彼のハーフパンツの股間部分を触らされる。

正確にはその中に収まっているもの、を。

「えっ、あっ、ちょっ」

慌てて手を引こうとするが、がっちり掴まれていて動かない。グリグリと手のひらに擦り付けるように触らされ、布越しにも感じる熱さと硬い感触に、混乱と緊張と羞恥が入り混じる。

「え、なんで……」

彼の男性器は機能しないはず。

なのに、そこは立派に隆起している。

「理由はわからねェが、名前の声とイク顔に興奮したのは確かだよい。すげェ可愛かった」

だけどまさかもう一度勃つ日がくるとは思わなかった、どんな治療を試しても治らなかったのよい、と驚きつつも晴れやかな顔を見せるマルコ隊長。

女の私には分からないが、男に取ってはよほど深刻なことだったのだろう。

そっと彼の股間から手を離し、いつになくはしゃぐマルコ隊長を微笑ましく見ながら、はたと気付く。

────自分の、貞操の危機に。

当たって欲しくないその予感は、見事に的中することになる。

はしゃぐ姿から一転。獲物を前にした肉食獣のように、ぎらぎらとした雄の目でのし掛かる彼に私は押し切られてしまうのだ。

痛いことはしないって言ったのに! と叫ぶ私にマルコ隊長はぺろりと舌なめずりをして、『大丈夫、嫌になるほど慣らして気持ちよくしてやるよい』と。

その言葉通り、ベッドの上でも有能さを遺憾なく発揮する彼にこれでもかと言うほど執拗にイかされ、ドロドロのグズグズに蕩けた所で数年振りに硬度を取り戻したという彼の逞し過ぎる肉棒に、私の処女膜は呆気なく破られてしまった。

さようなら、二十五年間共に過ごした大切な処女膜。

しかし痛みに備える私を待っていたのは、またしても目の奥が弾けるような快感で。

いくらマルコ隊長の技術が巧みでも、あんな大きなものを挿入されれば少なからず痛みは感じるんじゃないだろうか? そう疑問を呈するが、それは後に解明されることとなる。

実は私とマルコ隊長が飲んだあのお酒の果実は、ある島では媚薬の原材料に使われているような代物で、漬け込まれたお酒にもその成分は十分含まれているという。

だから私は初めてなのに、挿入で達してしまうほどの快感に包まれたのだ。

そして、その果実を丸ごと食したマルコ隊長には作用が強力に働き、男性機能を取り戻せたという訳だった。

そのせいで、二回戦、三回戦、と立て続けに致しても彼の彼は不死鳥の如く蘇り、ぐちゃぐちゃに乱れたシーツの上で精も根も尽き果てて、白む空を拝みながら「もう、許してください……」と、かすれ切った声を漏らしたのが最後。そのまま動かなくなった私は、翌日の仕事を休むハメになったのだ。

そして、そして、その翌々日。

仕事に復帰した私が七番隊ではなく、なぜか一番隊所属に変更されていたのは、マルコ隊長とラクヨウ隊長の間で何か秘密の取引があったとか、なかったとか……それは、二人にしか知らないことなのであった。

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