Novel

これが愛じゃなければ

「なァ、名前……」

深夜。

当直の見張り以外は寝静まる、静かなモビーディック号の船室で。

少し前から鈍い反応しか示さなくなった名前の中にある、自身のモノをゆるゆると揺すりながら問い掛ける。

「どうして約束、破ったんだよ?」

部屋に名前を連れ込んで、三時間。

その間ずっとおれのモノを突っ込まれ、散々喘がされた名前の喉は掠れ、空気が漏れるような苦しげな呼吸音しか吐き出さない。

「……答えろよ」

名前の奥を、ぐりっと抉る。

おれだけが知ってる、名前の一番弱い場所。

ここをぐりぐり擦ると、名前は決まっておれを狂おしく締め付けて潮を吹くんだ。

「ひっ……だ、め……ぁ、あぁっ…!」

ほらな、また吹いた。おれの腹と胸に熱い汁を飛び散らせて、こんなにぎゅうぎゅう締め付けて。

もし名前のマンコが口みたいに喋れたら、だめなんて言わずにもっともっとって可愛くおねだりしてんだろうな。

名前

この世でただ一人。愛しい女の名を呼んで、その顔を覗き込む。

くっきりとした二重に睫毛がバサバサで、甘えるみたいに目元が少しだけ下がってて。

大きくて真っ黒な瞳は凪いだ湖みたいに澄んで、おれみたいに澱んでいない。

……ああ、なんでこんなに綺麗なんだろう。

宝石みたいにキラキラ輝く瞳は、吸い込まれそうだといつも思う。

だけど、その瞳に映るのがおれだけじゃないことに、どうしようもない怒りが沸いてくる。

「男と二人で話さないって、約束したよな」

名前に覆い被さるように顔を挟んで両腕をつく。

ちらりと下ろした視線の先、その柔らかな肌に唇を寄せると、細い肩が尋常じゃなく跳ね上がる。

「お前はおれのモンだっていつも言ってるだろ」

「やっ、あぁっ、痛い、痛い! エース……!」

「なんで約束破ってマルコの部屋で二人で話してたんだよ」

「ひっ、ぁ、痛い、ああっ、痛いの……!」

名前の透き通るような真っ白な肌。

そこにたくさん付いたおれの歯形。

それはあざになって、白い肌を赤や青や紫に染めていた。

おれと名前が付き合い始めたのは、三ヶ月前だった。

『おれ、名前が好きなんだ』

名前のことはモビーに乗ったときから好きだった。

オヤジを急襲しては返り討ちに遭い、甲板の隅にいつも一人で座っていた傷だらけのおれに笑い掛け、手当をして、温かい飲み物を差し出してくれた名前に惚れた。

『またオヤジに挑んだの? ほんとに無謀なんだから。おいで、手当してあげる』

『昨日も何も食べてないでしょ。このスープ厨房から貰ってきたから飲みなよ』

『ほら、エース、食堂行くよ。うちのコックが作る料理は最高なんだよ』

そんな風に何度も話しかけ、頑ななおれの心を解いてくれた名前

最初はこの感情の名前が分からなくて戸惑った。

こんな気持ちを抱くのは産まれて初めてだったから。

でも名前と話すたび、地に足が付かないほど身体が軽くなって、名前が他の男に笑いかけるたび、その男が憎くなって、燃やしたくなって、名前がおれのモノだったら、とか、おれしかいない世界に名前を閉じ込めたい、とか考え始め、名前をめちゃくちゃに抱いてる夢を見て夢精したり、名前の裸を想像して何度も何度も抜いたり、娼婦がみんな名前の顔に見えたりして、やっと気付いた。

これが、愛だと。

だけど、船に乗ったばかりの新参が気持ちを伝えるのはまだ時期じゃないことは十分に分かってて。その鬱々した気持ちをぶつけるように、海賊船や政府の軍艦を沈めるうち、二番隊の隊長を任されるまでになった。

名前は自分のことのように手を叩いて喜んでくれた。

だからおれは気持ちを伝えたんだ。

宴ん時、祝いの言葉を掛けに来てくれた名前に。

『おれと、付き合って欲しい』

そしたら名前は『いいよ』って下がり気味の目尻をもっと下げて、すげェ可愛い顔で笑ってくれた。

幸せだった。幸福だった。この笑顔がおれのモンになったんだ。

こんなに満たされたことは人生で一度もなかった。

鬼の血を引くおれを受け入れてくれた名前

忌み嫌われ続けたおれを受け入れてくれた優しい名前

愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。

全身がその言葉で埋め尽くされて。

もっと見てほしい。

もっと愛してほしい。

おれのことだけ考えてほしい。

おれ以外の誰にも話しかけないでほしい。笑いかけないでほしい。

そんな自分勝手な思いがどんどん膨らみ、おれの中に潜む化け物が再び顔を出し始めた。

ルフィやサボに出会い、静まっていた化け物。

とっくに消え去ったと思っていたけど、そいつはまだおれの中にしっかりと巣食っていやがった。

『……名前、好き、すっげェ好き。愛してる』

『うん、エース。私も好きだよ』

名前もおれを好きだと言ってくれる。

だけど、足りない。

それじゃ、全然足りないんだ。

『……さっき、あの男と何話してたんだよ』

『さっき? ああ、ただの世間話だよ。次の島に美味しいスイーツのお店があるって教えてくれたの』

『…………なァ、名前はおれのことが好きなんだよな?』

『え? ……うん。好きだよ』

名前の瞳に映していいのはおれだけ。

名前の肌に触れていいのはおれだけ。

だって、そうだろ?

名前はおれのもんなんだから。

愛し合ってるんだから。

なのに、なんで名前は他の男と話すんだ?

なんで、おれだけじゃダメなんだ?

おれの中に潜む化け物が、抑えきれないほど膨らんでいく。内側で暴れ出す。

『だったら、他の男に笑いかけるなよ。おれだけを見ろよ』

『エース……?』

『他の男と二人で話すなよ』

『そんなの、むりだよ……』

『むりじゃねェ。やるんだよ。おれは名前しか見てねェんだから、名前もおれ以外見るんじゃねェ』

『やっ、なに、痛いっ! エース! 痛いっ!!」

『なァ、名前。おれしか見ないって誓えよ。おれとしか話さないって誓ってくれよ』

『いやっ、痛いっ、やめてっ……!』

名前が約束するなら、やめてやるよ』

『……っ、痛いっ、うぅ……わかっ、た、約束する…………』

食いちぎるほどの力で柔肌に歯を突き立てて言うと、名前は顔を歪ませ、澄んだ瞳を涙で曇らせて頷いた。

これで安心だと思った。

もう他の男と話さないと。

……でも、嘘だった。

確かに名前は自分から話しかけなくなった。

けど、男に話しかけられれば答えるし、笑顔も浮かべる。

その唇も、紡ぐ言葉も、笑顔も、

全部、全部、おれのモノなのに。

なんで、分かってくれない?

おれは、こんなにオマエを愛しているのに。

オマエしか要らないのに。

おれは、名前を四六時中見張った。

そして、男と話すたび噛み付いた。

真っ白で雪のように綺麗な肌を、めちゃくちゃに踏み荒らすみたいに歯形をたくさん付けた。

名前はいつも泣いてた。

けどおれはやめなかった。

名前が痛いって泣いても、やめてって叫んでも、余裕で押さえ込んで、チンコ突っ込んで、子宮をガンガン突いて、何度も歯を突き立てた。

「……っ、ぅ、エース、もう、っ、やめて……」

ふと、嗚咽混じりの声が頭に降ってくる。

唇を離すと、唾液を引く豊かな乳房にくっきりと歯形が付いていた。周りは白いのにそこだけ真っ赤に腫れて、余計に痛々しい。可哀想になって、獣が傷を癒す時みたいにぺろぺろ舐めると、耳に届く嗚咽が大きくなった。

顔を上げると、名前は眉を寄せて、キラキラの瞳からキラキラの涙をボロボロこぼしていた。

その雫に唇を寄せる。舌で舐め取ると、涙の味が口に広がった。しょっぱさなんか感じない、甘い甘い名前の涙。

ずっと舐めていたいのに、名前はおれの唇が近付くと条件反射のように身体を強張らせる。今もそうだった。拒絶されてるみたいで腹が立つけど、身体の痕を見ればそれも仕方ないと思う。

おれだって、こんなことしたくない。おれだって辛い。名前が泣くたび、おれも泣きそうになる。

「なんで、マルコの部屋にいたんだよ」

名前の中に埋まる肉を引いて、もう一度深く突き刺す。

こんなぶっといモンを何時間も入れっぱなしなのに、名前のマンコは全然緩まる気配がない。ぐにぐに締め付けてヒダがチンコに絡み付いてくる。堪らなくて奥を抉ると、また潮が吹き出した。

「ひあぁっ、ああぁっ、しょ、るい、っ、を……」

とどけたのっ、と掠れた声で叫ぶ。

答えないと、また噛まれると思ったんだろう。

快楽に喘ぎながらも、一生懸命おれの問いに答える名前が憐れに感じた。

おれは今日ストライカーで偵察に出ていた。帰ってオヤジに報告を終え、名前が待ってる部屋に戻るが姿はなくて。探し回るうち、マルコの部屋から出てくる名前を見つけた。そっから名前を部屋に押し込んで、犯しながら歯形をいっぱいつけて。

痛いって泣く名前をまた噛んで、犯して、噛んで、犯して、噛んで、犯して……

「…………これからは勝手に行くなよ。書類を持ってくるよう言われても、必ずおれを待つんだ。分かったか?」

「あっああっ、わ、かった、ああっ、ごめんな、さ……っごめ、なさ……っ、」

「いいよ、もう。許してやるから」

「ひゃぁ、ああっ、ぁああああっ……!!」

言いながら、ぐりぐりぐりぐり奥を突く。

いっぱい噛んだ後は、いっぱい気持ちよくしてやるんだ。

力の抜け切った名前の両足首を掴み、太腿が胸に当たるほど深く折り曲げる。

その瞬間、ぐじゅっ、ぶちゅっ、とはしたない音を立て、散々ぶち撒けた精液がチンコの隙間から逆流する。名前の腹の方に流れていく白濁。それを掌で名前の身体に塗りたくりながら、おれが見つけたあの場所を突けば、熱い飛沫が何度も吹き出してくる。名前が感じてる証拠だ。おれも、ぎゅうぎゅうに絞られながらチンコだけぬるま湯に浸かってるみたいで、すげェ気持ちイイ。

「なァ名前……っ、気持ち、い?」

「ふぅ…っ、エース、も、あっ、だ、め……ッ、あっ、んんッ」

「ん……ココだろ、 ほら、また吹いた。ホント奥が好きだな、名前は」

「あっ、ああっ、あああっ、!」

「っ、あ、好きだ、名前…ッ、愛してる……!」

「んああっ、エース……、っ、エースッ……っ」

「はっ、く……も、イく、ぁ、名前、おれまた、イく……っ!」

「っ、あぁぁああっ!!」

びゅるびゅると、何度も出したと思えない量の精液を中にぶち撒ける。名前も震えながら、ぷしゅっと吹き出す潮で自分とおれの身体を濡らして。

おれと名前は、同時に果てた。

満ち足りるこの瞬間。この時だけは、名前がおれのモノだと実感できる。

名前の匂い。名前の肌。名前の体温。名前の温もり。名前の吐息。

全部が、おれだけのモノ。

「…………好きだ、名前。愛してる」

折り曲げていた足を、ゆっくりと下ろす。

愛の言葉を囁いて、愛しい女の唇に自分のそれを寄せる。途端に、ビクッと揺れる細い肩。絶頂の余韻に浸っている名前は、虚な瞳ではくはくと浅い呼吸を繰り返している。そんな状態なのに、身体を強張らせるんだ。それが、少し癪に触った。名前の顎を掴んで正面を向かせ、真上から見下ろす。

「口、開けろよ。名前

黒い瞳は揺れて焦点は定まらないが、言われた通り少しづつ口を開いていく。

名前は、決しておれに背かない。

チンコ咥えてって言えば咥えるし、喉まで入れてって言えばえずきながらも入れるし、精液飲んでって言えば全部飲んでくれる。

おれが、名前をそうしてきた。

「ん、いい子……」

だから今も何をされるか分かってて、乳首とおんなじ色した可愛い桃色の唇を開くんだ。

綺麗に並ぶ白い歯と、赤い舌が少しだけ覗く口内。

おれはその中に、自分の唾液を垂らす。

舌を突き出して、たらたらと流れ落ちる唾液が透明の糸でおれと名前を繋ぎ、口の中を満たしていく。そのことにどうしようもない喜びを感じると共に、それを受け入れてくれる名前に心のどこかで安心して。そして、コクンと喉を鳴らしておれの唾液を飲み込む姿に、言葉では言い尽くせないほどの愉悦を感じてしまう。

名前、美味し? おれの唾液」

「ん、ぅ……」

名前のも、飲ませて」

小さな口ん中に、舌をねじ込む。

「んんっ、ふ、ぁ……」

柔らかな口腔を舐め回して、唾液を啜る。

……ああ、なんで名前の唾液はこんなにも甘いんだろう。唾液だけじゃない。名前の身体から出るモノは全部甘いんだ。汗も、涙も、愛液も、潮も。全部蜂蜜みたいにとろとろ甘くて、頭をぼんやり痺れさせてくる。媚薬でも入ってんじゃねェかっていつも思う。

「……もっと飲みたい。舌、出して」

おずおずと差し出された舌の根元に刺激を加えると、湧き水のように唾液が分泌される。おれはその甘い蜂蜜をほしいまま舐めて、啜り、腹ん中に収めていく。

「ん、美味しい……名前の……」

「っ、んぅ」

口ん中を弄っていると、繋がったままの名前のマンコがピクピクと収縮する。その動きにチンコがまたはちきれそうなほど凶悪に育つ。今日だけでもう何度出したか分からない。名前の腹ん中は苦しいほどにおれの精液でパンパンだろう。だけどおれは何度でも名前を求めてしまう。口ん中に舌を突っ込みながら腰をゆるゆると動かす。

最高に気持ちいい、名前のマンコ。

まるで、おれの形にあつらえたみたいに、ピッタリと嵌る。

だけど、チンコの先がぐちゃぐちゃに蕩けた奥を掠めた時だった。

「んっ、んぅっ! も、いやっ……っ!!」

夢の中にいた名前が、突然目を覚ましたように悲鳴をあげた。首を激しく振り、両手をおれの胸について押し退ける。

その瞬間、カッ、とマグマのようなものが全身を駆け巡った。

「っ、んだよ、この手はっ……! なんで、おれを拒むんだよ……っ!?」

「あ、……ちがっ、ごめっ…」

胸に置かれた手を掴みあげてベッドに押し付ける。

なんで、名前はおれを拒む?

おれは、こんなに名前を愛してるのに。

おれが、アイツの息子だからか?

おれの死を、世界中が望んでいるからか?

だから、名前もおれを拒むのか?

「……そんなに……おれが、いやかよ……」

「ちがう……エース、ちがう、の」

「嘘、つくなよ……! 本当は別れたいって思ってんだろ! おれと付き合ってから傷だらけだもんな、名前の身体。もう、いやなんだろ……おれが!」

「……ひっ、ぐぅ」

名前が、おれを拒絶する。

唯一愛した女が、おれを。

絶望に包まれたおれの中で、醜い化け物が一気に膨れ上がった。

「ぁ…、ぅぐ、ぁ……ぁ…………」

遠くで、苦しげな女の声がする。

今にも消えてしまいそうな儚い声。

その声に、真っ黒だった世界に少し色が戻る。

霞む目に映るのは、見たこともないほど苦痛に歪んだ名前の顔だった。

顔中真っ赤に染め、閉じた瞼から音もなく涙をこぼし、小さな手は縋るようにおれの手に重ねられている。

自分の首を掴む、おれの手に…………

────おれは、この手で名前の首を絞めていた。

「うあぁっ!! ごめっ、名前っ……!」

正気に戻ったおれは目を見張り、叫びながら折れそうなほど細い首から手を放す。

自分の行動が、信じられなかった。

「っ、はっ、ぁ……」

圧迫から解放された名前の唇が、酸素を求めて大きく喘ぐ。かひゅっ、と喉が鳴る。苦しげな音を立てる喉に震える手を伸ばすと、名前はおれが唇を近付けた時と同じように、酷く身体をビクつかせた。

「……あ……あぁぁ、ああ……ごめっ、名前……ごめんっ!」

手を引っ込めたおれは両手で自分の頭を抱え込む。ブルブルと止まらない手の震えが脳味噌を揺らす。目から落ちる涙が粒となって、名前の身体にぼたぼたと落ちていく。

おれを見る名前の怯えた目。

あざだらけの身体。

首に付いた指の痕。

これが……

これが、本当に愛なのか……?

なんでおれはこんな愛し方しか出来ない……?

このままじゃ、おれは…………

────ああ、誰か、

おれが名前を殺してしまう前に

おれを、殺してくれ。